紬の着物の中でも大島紬・結城紬などと比べるとあまり耳慣れない「天蚕紬」。ご存知でしょうか?天蚕とはヤママユガ科の昆虫の繭のことです。天蚕紬は古くから養蚕業が盛んな信州の地で生まれました。今回はこの天蚕紬についてご紹介していきます。「繭」と聴くとふわふわとした感触の良さをイメージしていただけるのではないでしょうか。他の紬と同様に、天蚕紬についても少し知るときっと興味が湧いてくると思います。ぜひご期待ください。

天蚕紬の買取相場

天蚕紬の買取相場ですが、直近数ヶ月のヤフーオークションでの相場でみると、14,000円程度です。

母数が少ないので振れ幅が大きいのですが、数万円ほどの買取額がついているものもありますね。

天蚕紬とは

天蚕紬

出典:https://www.motoji.co.jp/otokonokimono/ippin/ippin017.htm

 

さて、天蚕紬の産地は長野県松本市穂高町有明であることから、「有明紬」とよばれることもあります。有明地方では200年以上も前から、画像のような野生の蚕によって緑色の繭を作り出してきました。これらの野生の蚕はクヌギやナラの葉を食用として生育しています。

そして、繭を作った天蚕(やまこ)は600~700mほどの長さの緑色の糸を作って、一生を終えていくと言われています。しかし天蚕は自然界で生きているがゆえに、常に自然の荒波に左右されることが多かったことも事実ではないでしょうか。そのような困難から得た経験を生かして、当時の人々は天蚕の卵を採ってきて飼育しはじめるようになりました。この様式を「家蚕(かさん)」と呼びます。家蚕では1つの繭から1400mの糸が作れるので、天蚕にのみ頼るよりは効率的ではあります。

 

天蚕紬の全盛期は明治時代。しかし、戦後になると蚕の食料となるクヌギ林が激減したり、蚕が病気になりやすい生き物であったりすることなどから、養蚕業の継続が難しい農家が増えてきました。

唯一、一部の天蚕農家によって伝統は守られてきましたが、その希少性や飼育の困難さを考えますと、現在の天蚕紬は天蚕糸(てんさいし)のみで作られているものはほとんどありません。

そもそも一反の着物を織り上げるだけの天蚕糸を集めようと思うと、想像を絶するほど時間と並々ならぬ労力が伴います。

また、天蚕糸100%で織られた着物はかなりの高価格。このようなことから、大半は天蚕糸と家蚕糸とをうまく織り交ぜながら作られています。とは言っても、その比率は天蚕糸が家蚕糸の1割ほどしか使用されていないという状況なのでその希少さがお分かりいただけるかと思います。

このような希少な着物であることは変わりませんから、天蚕糸100%の着物ほどではなくても高値で販売されています。

 

ただし、天蚕紬はフォーマル用ではなく、普段着として着用する着物になります。また、最近では天蚕糸の美しさを広めるために、マフラー、ショールや財布などの小物に使用されることも増えてきているようです。

出典:http://www.iijan.or.jp/oishii/area/post-1880.php

天蚕紬の特徴

天蚕紬

出典:http://azumino.tensan.jp/product/item003.html

 

まず、天蚕紬の製作工程で目を見張るのは、繭の選別や繰り糸もすべて手作業で行われているということ。天蚕糸ほど手織りであるからこそ、機械では作り出せない弾力のある糸を紡ぎだせます。代々続いている伝統技術を大切にしようとする職人さんの心意気が感じられます。

天蚕紬

出典:http://azumino.tensan.jp/product/item001.html

 

ところで、天蚕が紡ぐ天蚕糸はその希少価値から「繊維のダイヤモンド」「繊維の女王」と呼ばれています。それほど美しく、光を乱反射するため絶妙な光沢があるのが特徴。とくに、穂高の薄緑色の天蚕糸は最高級品として扱われ、繰り糸からすべて手作業で行われています。そして、緯糸(よこいと)には天蚕と家蚕の繭と真綿を合わせて手で紡いだ糸を、経糸(たていと)には絹糸を使用して、織り上げていきます。

天蚕紬

出典:http://azumino.tensan.jp/product/item005.html

 

天蚕糸は一般の蚕が紡ぎだす糸よりもはるかに伸び方が強くふんわりとしているので、織るときには相当な熟練の技や豊かな感性を必要とします。丁寧に織り上げられた紬は肌触りの軽さ・しなやかさ・温かさが最大の魅力です。そして、何よりも天蚕糸が染料に非常に染まりにくいという特徴を存分に生かして、模様の部分に天蚕糸を使用してその魅力を最大限に引き出すという使い方がされています。染色に使用するのは信州の天然植物染料。まさに、天蚕紬は自然が作り出した織物と言ってよいでしょう。

まとめ

今回は天蚕紬についてご紹介させていただきました。いかがでしたでしょうか?天蚕糸の希少さから天蚕紬はとても貴重な着物であることをご理解いただけたのではないでしょうか。時代の流れとともに、天蚕農家が減少してしまいましたので、存続していること自体が奇跡なのかもしれません。しかし、このような職人さんの手作業で作られる個性あふれる美しい織物だからこそ、これからもこの素晴らしい天蚕紬の着物を出来る限り後世へと受け継いでいかれることを願うばかりです。