山梨県に位置する富士山山ろくの河口湖周辺で生まれた大石紬。雄大な自然環境に恵まれたこの地で栄えた紬織物です。全国的に見ても紬には様々な種類がありますが、この大石紬がどのような着物なのか、今回はその魅力と特徴などをお伝えしていきたいと思います。お楽しみに。

大石紬とは?

大石紬

出典:http://www.fkchannel.jp/oishitsumugi/facility/

 

大石紬とは、富士山山ろくに位置する富士五湖の一つ河口湖北岸大石地区で生まれた伝統の紬。江戸時代から伝わる紬織物です。平成6年に大石紬は山梨県郷土伝統工芸品として、認定されました。今では高価な着物の一つですが、もともとは売り物にはならない半端な繭を使って、普段着として織っていたようです。山梨県大石産の桑の葉を食べさせた蚕の糸から作る大石紬はまさにこの土地の自然によって作られた着物と言えるでしょう。とても丈夫で軽くて、絹のすべりの良さを感じられます。

大石紬の歴史

大石紬

出典: https://www.furusato-tax.jp/product/detail/19430/689912

 

大石紬は江戸時代から発展してきた織物です。そもそも、この地の特色が紬織物の発展につながっていきました。この地は高冷地なため、他の地域のように農業には不向きです。しかも、水路が整備されていないことから豪雨の度に冠水。このような状況から作物が育ちにくい環境にあったため、農業の代わりに養蚕業が徐々に栄えていきました。通常、他地域なら、養蚕業は兼業的な扱いで行われることが多かったのですが、大石地区の女性たちはほぼ朝から晩まで織物にかかりきりでした。このような状況が大石紬の発展のきっかけとなり、江戸時代には租税として納められたり、富士山にお参りに来る旅人に販売したりして、広く知られていったのです。その後も明治時代から昭和時代にかけて、様々な改良が加えられて、発展していきました。

 

しかし、戦後、蚕のエサとなる桑の木が伐採されてしまったり、経済が不況に陥ったりしたことなどの影響から、大石紬の製作も徐々に減少せざるを得ない状況になっていきます。今日においても原材料・後継者の減少などから、大石紬は存続の危機に陥っていました。しかし、この伝統を途絶えさせてしまってはいけないという大石地区の人々の想いが集結して、後継者の育成や大石紬の伝統技術の継承を目的に「大石紬伝統工芸館」が建てられました。今では大石紬の反物は数えられるほどしか生産されていないため、この大石紬伝統工芸館の店でのみ販売されています。

大石紬の特徴

大石紬

出典: http://www.pref.yamanashi.jp/koucho/tv/ima110504.html

 

それでは、大石紬の特徴をお伝えしていきます。大きなポイントは養蚕、草木染、製織までをすべて大石地区で行っているということ。まさに地域の産業です。草木染の材料もこの地区で採られた植物を使って染められているので、自然を存分に生かして、地域の職人さんの手によって丁寧に染め上げられています。

 

その他の特徴的な工程として「座繰り製糸」と「糸ほかし」があります。大石紬の場合、経糸(たていと)は本繭から、緯糸(よこいと)は玉繭から取り出すことになっています。座繰り製糸とは、繭から糸を取り出して、寄り合わせていくこと。3本の糸を合わせて1本の糸にしていく作業を延々と繰り返します。このとき、同じ太さにしなければならないので、熟練した腕が求められます。

 

次に「糸ほかし」ですが、これは大石紬のやわらかい質感を出すために重要な工程。染色、糊付けが終わった後に、固まっている糸を広げながら空気を入れて整える作業です。これにより、反物のしなやかさが格段にアップすると言われています。

 

大石紬はどちらかというと男物の高級紬として知られており、模様も縞や絣などのシンプルで幾何学的なデザインが多いのが特徴です。糸を染めるときに、ねじって染めない部分を作っておき、あえて染めなかった白い部分を模様として生かすなど熟練した技術が生かされていることにも伝統を感じます。

大石紬

http://www.pref.yamanashi.jp/koucho/tv/ima110504.htmlhttp://www.yamanashi-kankou.jp/tradition/craft.html

 

最近では着物以外にも、ネクタイ・スカーフ・巾着などの小物にも大石紬の反物が使われています。少しでも多くの方に大石紬の質感のよさを知っていただきたいという人々の想いの表れかもしれません。

まとめ

今回は、山梨県郷土伝統工芸品である大石紬のご紹介をさせていただきました。お楽しみいただけたでしょうか?絹織物と紬織物を融合した美しさ。一言で「紬」と言っても、産地によって様々な特色があることをお分かりいただけたかと思います。どの紬にも共通しているのは、産地の人々の想いが織られているということ。温かみ溢れる大石紬の魅力が後世に受け継がれていくことを願ってやみません。